「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/08/20

騎乗

昨日の車中にて「騎乗」(D.フランシス著/ハヤカワ文庫)讀了。また主人公はアマチュア騎手だが、物語の冒頭で十七歳、最後でも二十三歳と言ふ思ひ切つた設定。父親が野心的な政治家で、主人公は父の選挙活動を手伝はされることになる。しかし妨害工作と思はれる危機が次々に起こる。主人公は父を守り切れるか……と言ふストーリィ。毎回、(本質的には同じ内容ながら)良くも次々に違ふ設定を考へるものだな、と感心。

今回の主人公も、いつものやうに賢く強く公正で高潔な男なのだが、さすがにこの年齢設定だと、人間的に成熟し過ぎてゐる。こんな十七歳はゐない。しかし、さう言ふ意味の「リアリティ」を追求し出すと、ディック・フランシスの全作品が「そんなやつはゐない」の一言で片付けられてしまふ。そして、それ以外の点においては、シリーズ 36 作目と言ふ後期にあたりながらも讀み応へがあり、十分に面白い。特に、「優れた政治家」と言ふ日本では絶滅したか、そもそも存在したことのない人種を描いてゐるところが興味深い。かなり取材をしたのではないだらうか。

これだけ質の高い作品を短い周期で何十年も書き続けるのは、相当の才能と、習慣にまで化した献身的な努力が必要のはずで、やはりフランシスは「そんなやつはゐない」レベルに偉大だと思ふ。