「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/11/30

雪の別れ

夢現に「古楽の楽しみ」で D.スカルラッティを聴く。朝食と小一時間の勉強のあと出勤。往きの車中で「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第六巻、讀了。明日からは第七巻、「柏木」から「雲隠」の帖まで。つまり七巻で柏木が死に、紫の上が死に、光源氏が死ぬ。

今日も我が身の至らなさを痛感し、反省しつつ歸宅。猫や鳥とだけ暮らしてゐれば氣樂だらうが、吾斯ノ人ノ徒ト与ニスルニ非ズシテ誰ト与ニセン、と言ふ聖賢の言葉もある由。風呂の後、夕食の支度。仕込んでおいた塩豚を使つてカルボナーラ。白ワインを一杯だけ。チーズを少し。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)の下巻、「南部坂雪の別れ」から「吉良屋敷裏門」へ。

「元禄忠臣蔵」は資料調査に基き、史実に大きく外れないやうに書かれてゐるのだが、それでも「南部坂雪の別れ」は含まれてゐる。大石内蔵助が討ち入り直前、最期の別れのため瑤泉院宅を訪れる、「忠臣蔵」名場面中の名場面だが、実際は起きなかつた創作であることでも有名。「元禄忠臣蔵」ではこの篇の付記に、黙阿弥の原作に倣つて世間伝説を尊重して作つた旨、注意書きされてゐる。この場面は面白過ぎて作家として書かずにはおられなかつたのだらうが、流石に抑制が効いてゐて味のある一篇である。

とは言へ、お芝居としては、大石を罵つて追ひ返した瑤泉院が後で血判状を見つけて、「おお、あたら忠義の士を、女ごころの浅はかさから、あのやうに悪し様に……許してたもれ、許してたも、内蔵助……」と号泣する、なんて方がずつと感動的なのだが。

2016/11/29

ハンバーグ

今日は予定通りに目が覚めて、「古楽の楽しみ」を始めから聴くことができた。もちろん寢台で、だが。バッハのカンカータ。明日は D.スカルラッティとソレールらしい。ちやんと起きられれば良いのだが。朝食と弁当作りのあと、ラテン語と數學基礎論の勉強を三十分づつしてから、今日も念々今日、念々今日、と唱へながら出勤。

夕方いつもの時間に退社。歸宅してまづ風呂。湯船では相変らず、``The Paper Thunderbolt"(M.Innes / Penguin) を讀んでゐる。一日精々二、三ページとは言へ、ほとんど毎日讀んでゐると進むもので、六割方のところまで來た。アプルビイの妹ジェインが謎の救急車を追跡中、アプルビイも謎の村に焦点を定めて活動開始、と言つたところ。

夕食の支度。朝から楽しみにしてゐたハンバーグをゆるゆると焼く。他に、薩摩芋、目玉焼き、キヌアのトマト煮。カルカソンヌ産のシラーを一杯だけ。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)の上巻から下巻へ。やはりしばしば上演されるだけあつて「御浜御殿綱豊卿」の篇は良く出來てゐる。松嶋屋の声を思ひ出しながら讀む冬の夜。

2016/11/28

ねんねんこんにち

また一週間。朝食と弁当作りのあと、ほんの少しづつラテン語と數學基礎論の勉強をして、出勤。やや忙しい一日。夕方いつもと同じ時間に退社。嗚呼、今日も私の人格的な至らなさの目立つ一日だつたなあ、と反省しつつ歸る。シブミの境地はまだまだ遠い。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。餃子鍋とそのあとの卵雑炊。白ワインを一杯だけ。夜は「元禄忠臣蔵 (上)」(真山青果著/岩波文庫)など。

「毎日目がさめると同時にな、あああ、今日も結構な日に生きていて仕合せじゃ。有り難い今日に遇いまする。その有り難い今日を、徒に過ぐしてはなりませぬ。今日一日は面白おかしゅう、結構に送らせていただきますと、天地の御恩に謝するのを、仏家の方では念々今日と申すのじゃ」、とは、伏見撞木町の揚屋で芸者衆と浮かれ騒ぐ大石内蔵助の有り難いお言葉である。「明日の大事があるゆえに、今日飲む酒がうまいのじゃ。そちにはその心が分からぬか……」。

2016/11/27

日曜日

また寢坊。十一時間、寢てしまふ。しかもまだ眠い。最近、段々睡眠時間が延びて來てゐて、そのまま起きられなくなるのではないかと心配だ。それはそれで一番幸せなことかも知れないが。慌てて朝食をとる。夕方まで一週間分の家事と、その合間の讀書の日曜日。

「シブミ (下)」(トレヴェニアン著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)、「元禄忠臣蔵 (上)」(真山青果著/岩波文庫)など。

夜は田園調布のフレンチレストランにて会食。

2016/11/26

シブミ

家事の他は讀書の一日。今日明日で「シブミ」(トレヴェニアン著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)をゆつくり読もうと思ひ、今朝から始める。

初めて讀んだのは確か高校生の頃だつたのだが、当時は滑稽な、と言ふほどではなくとも、戯画的な印象を受けたものだ。何せ、滅び行く日本の心「シブミ」を会得した暗殺者ニコライ・ヘルが主人公なのである。「アイガー・サンクション」の主人公ヘムロック教授も、大學教授で美術鑑定家でありながら、絵画蒐集の高額な費用を捻出するため殺し屋をしてゐる、と言ふ漫画のやうな設定だつたが、それを上回る造形。

ニコライ・ヘルはハプスブルグ家の血をひきながら、日本人に育てられて日本的精神の至高の境地「シブミ」を目指すに到り、囲碁とケイヴィングの達人で、狙撃や望遠カメラすら「近接感覚」によつて無意識に避けることができ、日常のあらゆるものを武器にする殺人技「裸-殺」を極めた世界屈指の暗殺者だつたのだが、今はバスク地方の寒村で情婦と庭師とともに靜かに引退生活を送つてゐるのである。

しかし今讀むと、トレヴェニアンにおいて漫画的な設定はあくまで形式なのであつて、その形式を徹底することによつて何か他のことを書いてゐるのである。トレヴェニアンは寡作だが作品はどれも凡庸な作家の傑作の遥か上であり、その中でも「シブミ」が彼の代表作であり最良の作だろう。


2016/11/25

キアスムス

今日も気温は低めだが、日差しはあたたかい。と言ふ様子を窓辺から見てとる。猫が日溜まりで、にゃあむにゃあまあにゃ、と何事かしやべつてゐる。この朝を寿いでゐるのだらう。「愚かなる人間どもめ、我を崇めよ……」とか言つてゐるのかも知れないが。猫にキャットフードと水をやつて、朝食の支度と弁当作り。

食事のあと、いつもの勉強を 30 分づつ。ラテン語は "Wheelock's Latin" でマルティアリスのエピグラム 12.10 の chiasmus, すなはち交差対句法を鑑賞し、セネカの道徳書簡集の一節 17.5 からの例文を明日のために書き写しておく。「キューネン 数学基礎論講義」は命題論理のコンパクト性定理とか。四色問題への応用がなかなか面白い。

いつもの時間に出社、所用のためいつもより少し早く退社。これから風呂に入つてのち、「元禄忠臣蔵」(真山青果作/岩波文庫)でも讀みながら寢よう。

2016/11/24

背理法

また少し寢坊。居間のカーテンを開けると、雪が降り、屋根屋根に積もつてゐる。「霜月の帝都に雪か……大蔵省あたりの首塚が騒ぎ出したやうである」、「にゃあ(御意)」、「お上は御無事であらうな、侍従長の入江に一応問ひ合はせよ」、「にゃあ(御意)」と言つた小芝居を窓辺で猫と交はして、朝食の支度。

ラテン語の勉強は Martial "Epig." 12.10 の解釈、「キューネン 基礎論講義」は "Reductio ad Absurdum" など。思ひがけなくこちらもラテン語だ。基礎論の根の一つは中世のスコラ哲学なので、不思議ではないが。雪の中へと出勤。いつも通りに、定時から定時まで。夕方には既に雪は消えてゐたが、昨日までに比べてぐんと寒い。

歸宅して、風呂に入つてから夕食の支度。豚肉の水炊きとそのあとの卵雑炊。カルカソンヌの白ワインを一杯だけ。夜は「窓際のスパイ」(M.ヘロン著/田村義道訳/ハヤカワ文庫)の讀み残しを終へる。

2016/11/23

窓際賊

やや寢坊して起床。昨夜は会食だつたので、簡略的な朝食。そのあとラテン語の勉強。朝風呂に入つて、「窓際のスパイ」(M.ヘロン著/田村義道訳/ハヤカワ文庫)を讀み始める。

MI5 で不祥事を起こした部員が送り込まれる最下層の窓際部署、通称「泥沼の家」を舞台にしたエスピオナージュ。設定に新味があるものの、プロットが単純過ぎるし、作品内でも言及されるモームやル・カレのやうな深さや風格がない。とは言へ、やはりイギリスの伝統的なスパイ小説だなあ、と思ふ。末の世なのだから、新しいものはこれで十分素晴しいと見なければならない。著者はベリオール・コレジ卒のインテリで、オックスフォードからロンドンに通勤する会社員、その余暇でミステリやスパイ小説を書いてゐるらしい。そこも伝統的。

晝食は明太子スパゲティ。午後も「泥沼の家」の他、數學基礎論の勉強や、少し原稿書きの仕事など。夕方再び風呂に入つて夕食の支度。白菜の浅漬、秋刀魚煮、焼き餃子、御飯、若布と糸寒天の味噌汁。食後にチーズでワインを一杯だけ。

夜はヴィデオで映画「忠臣蔵」(渡辺邦男監督/1958年)を観る。忠臣蔵はやはり良い。分かつちやゐるけど泣いてしまふ。

2016/11/22

初「よいお年を」

夕方から渋谷にて E 社の N 社長と会食。まだ十一月だが N さんは年末はもつとお忙しいのだらう、これが忘年会のお誘ひ。胡瓜やら砂肝ポン酢やらを齧りながら、わびしく一年を振り返る。夏に手術入院をされたとかで心配してゐたのだが、元気そうで安心した。

二時間でお開きになつて、渋谷駅にて「よいお年を」と挨拶をして別れる。十時間睡眠する私は歸つて寝支度をしなければならない時間だからだが、N さんは青山あたりの馴染のバーに行くやうなことを言つてゐた。

今、歸宅して、これから風呂。そしてすぐに就寢予定。

2016/11/21

餃子鍋

さて、また一週間。昨夜は觀劇で遅くなつたせゐもあり、かなりの寢坊。とは言へ、朝食、弁当作り、ラテン語、數學基礎論と、それぞれ十五分づつくらゐの感じで無理矢理こなして、出勤。もつと腰を据ゑてかからねば身にならないと思ふものの、生来の怠け者ではしやうがない。

いつも通りの時間に出社、退社。冷たい小雨がぱらついてゐる。歸り道のスーパーで買ひ物。まだ白菜が高いが、今日は鍋しかないな、と思ひ購入。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。大量に大根おろしを作つておいて、餃子鍋。ペールエールを一本だけ。あとは饂飩にした。ささやかな幸福。

昨夜歌舞伎座で観た「元禄忠臣蔵」に感心して、早速、古本屋に「元禄忠臣蔵 (上・下)」(真山青果著/岩波文庫)を注文した。やはりこの季節、日本人は忠臣蔵だ。渡辺邦男監督の「忠臣蔵」も観なければ、とヴィデオを探してみたり。

2016/11/20

吉例顔見世大歌舞伎

ほとんど毎日のことだが、また十時間以上寢てしまつた。朝食はチアシード入りのヨーグルト、トーストにバタと自家製の葡萄ジャム、目玉焼きにキヌアのトマトソース煮、珈琲。洗濯をしてから、朝風呂。晝食の時間までは少し書き物仕事。

晝食は納豆アーリオ・オリオ・ペペロンチーノと白ワインを一杯だけ。食後にさらに晝寢。手抜き氣味に殘りの家事を片付けて、夕方から歌舞伎座へ。

十一月と言へば顔見世である。冷酒を一合ほど水筒に詰めて行き、木挽町辨松で買つた幕の内を肴に飲みながら觀劇。吉例顔見世大歌舞伎は芝翫他の襲名口上の他、「元禄忠臣蔵」、「盛綱陣屋」、「芝翫奴」。

目当ては「元禄忠臣蔵」の「御浜御殿綱豊卿」。綱豊卿に仁左衛門、助右衛門に染五郎。仁左衛門は流石で、深い奥行のある役柄を余すところなく演じてゐた。染五郎はおおざつぱだが、人柄に合つてゐるのか、安定感があり、仁左衛門にも負けてはゐなかつたのでは。それから、女形の梅枝がなかなか良いと以前から思つてゐる。今回はお喜世を演じてゐて、地味ながら過不足ない。


2016/11/19

451

雨音で目が覚めた。朝食のあと身支度をして、定例のデリバティブ研究部会自主ゼミに出かける。Ornstein-Uhlenbeck 半群の従属操作、乗法作用素など。ランチは重慶麻婆豆腐。

歸宅して午後は讀書など。「華氏 451 度 [新訳版]」(R.ブラッドベリ著/伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫)。旧訳のやや冗長で讀み難い印象がすつかり變はり、こんなに凝縮された短かい話だつたつけ、と言ふ感じ。もちろん文字通り不朽の名作である。あとがきでも言及されてゐる F.トリュフォーによる映画化は、高校生の頃に友人宅で観た。暗いイメージの映画だつたとしか内容は記憶にないが、三十年以上前のことなのに観た状況は覚えてゐるところからして、傑作だつたのかも。

夕方になり、風呂に入つてから夕食の支度。大根千切りきんぴらと秋刀魚煮で冷酒を五勺。メインは塩豚と牛蒡の炊き込み御飯。若布と糸寒天の味噌汁。食後に種子島安納芋の焼き芋と包種茶。


2016/11/18

横浜とヒントン

「古楽の楽しみ」のリクエスト特集に、ああ金曜日だなあと思ひ、モンセラートの朱い本なんて言ふリクエストに、渋いリスナもゐるものだなあ、と思ふ朝の寢床。起き出して朝食を食べ弁当を作り、ラテン語の勉強と數學基礎論の勉強を三十分弱づつして出勤。

いつもの時間に出社、退社。歸り道で生餃子を買つて歸宅。風呂に入つてから、餃子を焼いて、ペールエールを一本だけ。半分は酢で、半分は辛子とポン酢で食べた。今週も生きてゐて良かつた、と言ふよりは、まあ悪くはなかつたし、おそらく死ぬよりは断然ましだつた。

夜は心靜かに、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)より C.H.ヒントンの巻「科学的ロマンス集」を讀んだり。文學全集にヒントンを入れると言ふアイデアはボルヘスでなければ思ひつかないのでは。ところで、宮川雅氏が月報に、ヒントンは(おそらく)御用學者として日本に滞在してゐたことがあると書いてゐて、ホホウと思ふ。中學校で數學を教へてゐたらしい。だから何と言ふこともないのだが。ちなみに、横浜山手のフェリス女學院のそば、願西寺の隣に住んでゐたと言ふ。

2016/11/17

鰯の缶詰

歸りの電車は遅延のせゐかぎゆうぎゆう詰めの満員。途中から本を開いてゐられなくなつて、しかし鞄に片付けることもできず、毛主席語録を掲げる共産党員のやうな格好に「真夜中への挨拶」(R.ヒル)を捧げ持つたまま全身マッサージを受けながら揺られて行く。酷い目にあつた。

歸宅して風呂のあと、夕食の支度。疲れてまともに料理をする氣になれず、手抜き。キャベツを千切りにしてフライパンに敷き詰め、切つた塩豚を並べ、酒と醤油をふりかけて蒸し炒めにする。赤ワインを一杯だけ。のち、押し麦入りの冷や御飯にレトルトのチキンカレー。食後にワインとカマンベールを少し。

夜は「論語新釈」(宇野哲人訳注/講談社学術文庫)など。新釈、つまり朱子の注釈に沿つたもので、あまり現代的とは言へないが、それはそれで勉強になる。

2016/11/16

水曜日

まだ水曜日。今週は長いなあ……と思ひつつ歸宅。風呂に入つてから夕食の支度。秋刀魚煮で冷酒五勺を始めながら、大根と豆腐の小鍋だてが煮えるのを待つ。のち、味噌味の卵雑炊。食後に台湾の包種茶と小さな焼き芋。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/15

カルボナーラ

また少し寢坊。朝食後、"Wheelock's Latin" でラテン語の勉強を少し。いまだに指示代名詞などをやつてゐる。演習問題でテレンティウスの文を二つ解釈。次は「キューネン 数学基礎論講義」(藤田博司訳/日本評論社)。漸く集合論の章を終へてモデル理論と証明論の章に入つた。それぞれ一日三十分弱とは言へ、それなりに進んで行くものだ。

いつもの時間に出社、退社。昨夜の雨のせゐか、朝も夕方も空気が生暖かい。歸宅して風呂に入つてから、夕食の支度。葱焼豚で白ワインを一杯だけ。のち、仕込んでおいた塩豚でカルボナーラ。カルボナーラは最強の卵料理の一つだなあ……グラスに殘つたワインでチーズを少し。のち小さな焼き芋一つ。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/14

猫は寢る子

また月曜日である。なかなか起きられず。猫はいいなあ、寝たきりで。往きの車中の「源氏物語」は「若菜 上」の帖を讀了。「若菜 下」に續く。猫の話。歸りの車中では「真夜中への挨拶」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1782)。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。アーリオオーリオを作つて、この前の「イカのスペイン風」の殘りを添へ、パセリを散らす。白ワインを一杯だけ。グラスに残つたワインで、チーズを一切れ。のち焼き芋一つ(焼き芋ブーム継続中)。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/13

「疲れた男のユートピア」

十時間寢てもまだ眠い。休日向けの洋風朝食を済ませ、朝風呂の湯船で「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)のボルヘスの巻「パラケルススの薔薇」より「疲れた男のユートピア」(鼓直訳)を讀む。

「百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。」

同短篇に登場する未來人が、本を二千冊所有してゐると言ふ主人公に対して、自分は四百年生きてゐるが十五冊も読めてゐない、繰り返して讀むことが大事だ、と言ふ。この未來に於ては印行は絶滅してゐる。電子出版に代はられたのではなく、書写に戻つたのである。印行は不必要にテクストを増大させる愚行だと分かつたから。ところで、同書巻末にボルヘスがアルゼンチンの出版社の企画で選んだ ``Biblioteca personal"(「個人図書館」)百冊のリストが収められてゐる。最近の私は、引退後に繰り返して讀む精々百冊程度の書架を持ちたいと思ふやうになつて來たので、参考になる。

晝食はお好み焼きと赤ワインを一杯だけ。のち、「青い虎」を讀みながらグラスの殘りでチーズを少し。さらに、焼き芋。晝寢二時間のあと、家事。掃除や料理の仕込み。夕方になつて再び風呂のあと夕食の支度。牛蒡と人参のきんぴら、葱と焼豚、のち、うな茶。夜は、いつの間にかまた冬だなあ、と思ひつつ「和漢朗詠集」(三木雅博訳注/角川ソフィア文庫)など。風雲ハ人ノ前ニ向ヒテ暮レ易シ、歳月ハ老ノ底ヨリ還リ難シ、か。

さてまた明日の朝からお仕事だ。日曜日の夜から既に疲れ氣味なのだが。


2016/11/12

「烏賊はおのれの墨を選ぶ」

近所のスーパーに買ひ出しに行つて、するめ烏賊の目玉と目が會ふ。先日「檀流クッキング」から「台湾おでん」を作つたし、昨夜「バベルの図書館」の「アルゼンチン短編集」よりビオイ=カサレス「烏賊はおのれの墨を選ぶ」を讀んだことから導き出される結論は、ずばり「イカのスペイン風」(プルピートス)だ。

そんなわけで晝食に「イカのスペイン風」を作る。かう言ふ時は色々と平仄が合ふもので、たまたま買つてあるワインも大蒜もスペイン産。パンを添へて白ワインと。晝間からうますぎる。「檀流クッキング」の中でも一二を争ふ料理だと思ふ。

行つたことはないがスペインはきつと良い國に違ひない。アルゼンチンも。

2016/11/11

ブランド薩摩芋

親会社の全体会議のあと退社して、帰り道で薩摩芋などを買つて歸宅。この前は近所の八百屋で処分品を買つたのだが、今回は某高級スーパーで福井県富津地区産「とみつ金時」を買つてみた。所詮が薩摩芋なので高価なものではないのだが、関西弁で言へば「なんぼのもんやねん」と言ふ気持ちで。私は子供の頃から焼き芋と言へば、お向かひの徳島県産「鳴門金時」だつた。さて、とみつ金時はなんぼのものか。

湯船の讀書は、"The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin) 。丁度、中程。謎の研究所から逃走を續けていた小悪党 Routh の進路がオックスフォードにてアプルビイと交錯。オックスフォードでは学生の他に子連れの外国人女性も謎の失踪。秘密は "Milton Porcorum" と言ふ妙な名前の村にあるらしい……と、漸く面白くなつてきた。しかし一日數ページづつしか進まないので、今年中に讀み終へられるかも怪しい。

そして食後にとみつ金時をオーヴンで焼き芋にして食べてみた。確かにうまい。ねつとりとしてゐて、甘みが強く感じられ、これだけでデザートとしての風格がある。一回つぶして裏漉ししてから固め直したかのやうな透明感……やるな、とみつ金時。でも、「当タリ」の時の鳴門金時もこのくらゐ美味しかつたはず、と弁護して置こう。

2016/11/10

幸せの秘訣

昨日よりも気温が低いものの風がないので、さほど寒くない。コートは着ずに家を出た。いつもの時間に出社、退社。歸り道で食材と花を買ふ。糠雨が降つてゐる。

夕食の支度。小松菜の浸しと高野豆腐と卵の煮物でぬる燗を五勺。のち、小さな鰻丼と澄まし汁。鰻もうまいが、何よりも米がうまい。私は普段、押し麦との七三なので、白米が無闇にうまい。

我が家では猫にも言ひ聞かせてゐるのだが、たまにだから美味しいので、毎日食べたらすぐ美味しくなくなる。だから、普段は乾燥キャットフードで、土曜日だけパウチもの。おかげで土曜日は、「こんなうまいもの食べたことにゃんにゃー!」くらゐの勢ひでがつがつ食べてゐる。若干、哀れをもよほさないでもないが、私も同じ。

夜は「論語」と「エセー」で心靜かに過す。

2016/11/09

台湾おでん

今日は強烈な北風が吹くと言ふので、トレンチコートを着て出勤。しかし久しぶりに重いコートを着たので肩が凝つてしまつた。少しでも輕くしようと肩のストラップを外してゐるのだが、やはり大差ない。しかも、もし塹壕に落ちても誰かに引き上げてもらへない。

夕方から私用のため今日も少し歸宅が遅くなつた。夕食は「檀流クッキング」(檀一雄著/中公文庫)に邱永漢氏から直伝された料理として紹介されてゐる「台湾おでん」(?)。今朝から仕込んでおいた。赤ワインを一杯だけ。のち、押し麦入り御飯に溶けた葱など乗せて台湾おでん丼的なものにして食す。食後にグラスに殘つたワインでカマンベールの燻製を少し。

「檀流クッキング」には色々樂しい料理が出てゐるが、私が試してみた中で断トツに美味しいものが二つあって、その一つがこの「台湾おでん」だ(「パーソー」と題された章に出てゐるが、パーソーとは別の料理)。時々、発作的に食べたくなつて作つてしまふ。ちなみに、本にはほとんど醤油だけで煮るかのやうに書かれてゐるが、いくら何でも塩辛過ぎるので、私は鍋に醤油と酒をお玉に一杯づつ(あとは水)にしてゐる。

2016/11/08

鰻の柳川鍋

なんとか八時間程度の睡眠時間で、五時半に起きられたのだが、すると今度は日中に眠くてしやうがない。夜に十時間寢て晝に二時間ほど寢れば調子が良いのだが、それでは普通の勤め人の生活が出來ない。悩ましいところだ。夕方から親会社の関連深い部署の全体会議があつたので、歸宅がかなり遅くなつた。外は冷たい小雨。

風呂は後にして、まず晩酌。ぬる燗を五勺、小松菜のおひたしにちりめんじやこ。續けて、鰻と牛蒡の柳川風鍋。身体があたたまつたところで、蕎麦を茹で、鍋に殘つただしにつけて食す。山椒もまたよし。

この後、風呂に入つてから、バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりカゾット「悪魔の恋」の巻など讀みながら就寢の予定。

2016/11/07

嗜眠症

八時間睡眠で六時に起きられた、と思つて「古楽の楽しみ」を聞き始めたらまた寝てしまひ、気付いたら七時半を過ぎてゐる。また十時間近く寝てしまつたのだ。ナルコレプシだと言ひたいところだが、ただの怠けもの。若いときに素直でなく、大人になつて誰にもほめられず、おめおめと歳だけとつて死にもしない、そんな輩を賊と言ふのです、と。誰かに脛でも叩かれた方がいいのかも。

と、自分を叱咤激励して、慌てて朝食をとり、適当に弁当を詰め、本當に少しづつ(多分、十五分づつくらゐ)ラテン語と數學基礎論の勉強をして、出勤。いつもと同じ時間に出社。

夕方いつもと同じ時間に退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。鰻と長葱のざくざくでぬる燗を五勺。續いて湯豆腐。そして小松菜の煮麺。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりカゾット「悪魔の恋」の巻など。

2016/11/06

笑ふ食エッセイ

いくらでも眠れる。晝寢を二時間した上に、夜は十時間寝てしまふ。ツェツェ蠅に刺されたのか。明日からちやんと通勤できるのか不安だ。遅く起き出して簡単な朝食。朝風呂に入つて、湯船で「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)を讀む。

晝食はマルタイの棒ラーメン(小松菜と豚肉と茹で卵と葱)。午後は讀書と家事など。三時に珈琲と、小さなトーストに厚くバタを塗り自家製の葡萄ジャムを乗せて焼き直したものを食べながら、「笑う食卓」(立石敏雄著/阪急コミュニケーションズ)を讀む。「笑う食卓」は兎に角、可笑しいし、猫のヒジカタクンが可愛い。

食と料理に関する笑へるエッセイと言えば、この立石敏雄とフェデリコ・カルパッチョが両雄だと思ふ。しかし、立石氏は 2008 年「笑う食卓」の一冊しか著書がないし、カルパッチョ氏は盟友ドットーレ・コグレ亡き後、消息不明と聞いてゐるので、残念至極だ。おそらく前者はますます深窓のをぢさん化して主夫業に励み、後者はイタリアに歸國して老いてますます盛んに健全な美女たちと健全な美食に耽つてゐるのだらう。どちらも羨しい限りである。

夕方再び風呂に入つて夕食の支度。小芋の煮物でぬる燗を五勺。日曜日くらゐは酒を控へようと思ふのだが、酒は憂ひを払ふ玉箒……などと呟きつつ、やはり飲んでしまふ。そのあと、鯵の開き、明太子だし巻き、焼き海苔、豚汁、押し麦入り御飯。さて、また一週間だ。

2016/11/05

神保町

午前中は定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。K さんによる、対数ソボレフ不等式の証明、超縮小性の応用など。相変はらず滑らかな講義ぶりだつた。ゼミ後のランチはタイ料理。トムヤムクンの麺にガパオライス(小)とサラダ付き。美味しかつたけれども食べ過ぎ。もう歳なんだから、炭水化物の炭水化物添へみたいなセットは止めないと。

そのあと、神保町へ。古本まつりの最中らしく、かなりの人出。ミステリ系と「料理と食」系の古書店などを周る。レジナルド・ヒルとディック・フランシスの未読の翻訳の他、"The Silent Speaker"(R.Stout / Bantam), "Death of a Doxy"(R.Stout / Bantam), "From London Far"(M.Innes / Penguin). 「料理と食」方面は買ひたい本が見つからず。珈琲屋で一服してから帰る。歸宅して本を讀みながら、少し横になつたら、暗くなるまでまた寝てしまつた。

夕方になつて風呂に入つてから夕食の支度。ぬる燗五勺で、小芋の煮物と鯵の味醂干し。のち、卵雑炊(大根、人参、葱)。夜は、こんなに洋書を買つても存命中に読み切る語学力がないんだがなあ、と思ひつつ本の整理。

2016/11/04

湯豆腐からうどんすき

祝日と土曜日の谷間の金曜日出勤。眠くてしやうがない。急に気温が下がつて來たせゐで、身体がその変化について行けないのか、または身体が冬眠しようとしてゐるのかも。兎に角、体力はさておき、知力と気力が大いに減退してゐるので何とかせねば。

夕方いつもと同じ時間に退社。歸りの車中の讀書は今日から、「真夜中への挨拶」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1782)。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。湯豆腐でペール・エール。湯豆腐はいい。のち、子母沢寛流のうどんすきに展開。脂身の多い豚肉を鍋に煮立てておいて、しやぶしやぶの要領でうどんをくぐらせ、たれにつけて食べる。たれは醤油と味醂を昆布だしで適当にのばしたもの。味醂を強めに効かせた方がうまい。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりスティーヴンソンの巻「声たちの島」(高松雄一・高松禎子訳)など。

2016/11/03

芋を焼いたり煮たり

祝日だがいつもと同じやうに起床して、いつもと同じやうにラテン語と數學基礎論の勉強を三十分づつ。湯船で「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)を讀みながらゆつくり朝風呂。晝食までは書き物仕事を少し。

晝食はマリナーラソースを作つて、小松菜のポモドーロ。赤ワインを一杯だけ。チーズを少し切る。午後は、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)の「ロシア短篇集」の巻よりトルストイ「イヴァン・イリイチの死」(川端香男里訳)や、 "The importance of living" (Lin Yutang / Harper)など。三時には薩摩芋をオーヴンで焼き芋にして食べた。近所の八百屋で一袋(四本)百円で買つたのだが、意外に美味しい。

夕方になつて再び風呂に入つてから夕食の支度。豚肉の漬け焼き、キャベツ千切り蒸し、豚汁、押し麦入り御飯。ついでに小芋の煮物も仕込んでおいた。これも八百屋で一袋(20 個くらゐ?)百円で買つた。小芋と言ふにも小さいので、そのまま塩茹でして皮を剥きながら食べるべし、と八百屋は薦めてゐた。簡易版の衣被だが、酒の肴に乙かも知れない。

2016/11/02

「標的」と「論語」

水曜日。だが、明日は祝日なので週末気分。歸りの車中で「標的」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)を讀了。

かなり後期に属する作品だが、安定した面白さ。今回は、小説家を目指すサヴァイヴァルの専門家が、アルバイトで伝記を書くことになり、調教師一家に関わる。設定をひねり過ぎてゐるし、今回こそ馬はいらないだろう、と思ひもしたが、それでも水準以上の出來。次はまたレジナルド・ヒルに戻つて「真夜中への挨拶」の予定。フランシスはあと八冊、ヒルはあと四冊。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。また鍋。今日は寄せ鍋にしてみた。でも具は豚肉、小松菜、しめじ、えのき、長葱、と昨日とほとんど同じ。白ワインを一杯だけ。あとは饂飩。長葱の青いところと卵を追加。食後にカマンベールの燻製を切つてワインをもう少し。

夜は、愛讀書の「論語」(貝塚茂樹訳注/中公文庫)。どれくらゐ愛讀してゐるかと言ふと、左の写真くらゐ。私は「論語」より「荘子」や「列子」の方が遥かに好きだ。しかし、良く繙くのは何故か貝塚「論語」。カルヴィーノが、自分だけの古典とは自分が無関心でゐられない本であり、その本の論旨に賛成できないからこそ、さうなのかも知れない、と言ふやうなことを書いてゐたのを思ひ出す。

2016/11/01

いつもの時間に出社、退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。また鍋。豆腐、豚肉、小松菜、しめじ、えのきの水炊き。自家製のポン酢にて。白ワインを一杯だけ。あとは饂飩にした。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)の「ロシア短篇集」の巻より、ドストエフスキー作「鰐 — ある異常な出来事、或いはアーケード街の珍事」(望月哲男訳)。同僚の老官僚との対話の馬鹿馬鹿しさが特に面白いはずなのだが、大学の事務も同じくらゐ馬鹿馬鹿しいことがあるので、むしろデジャヴュの感。

それはさておき、ロシアを代表する三篇を選んだうちの一つがこの「鰐」と言ふところがいかにもボルヘスらしい。あとの二つは、アンドレーエフ「ラザロ」とトルストイ「イヴァン・イリイチの死」。