「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/11/30

雪の別れ

夢現に「古楽の楽しみ」で D.スカルラッティを聴く。朝食と小一時間の勉強のあと出勤。往きの車中で「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第六巻、讀了。明日からは第七巻、「柏木」から「雲隠」の帖まで。つまり七巻で柏木が死に、紫の上が死に、光源氏が死ぬ。

今日も我が身の至らなさを痛感し、反省しつつ歸宅。猫や鳥とだけ暮らしてゐれば氣樂だらうが、吾斯ノ人ノ徒ト与ニスルニ非ズシテ誰ト与ニセン、と言ふ聖賢の言葉もある由。風呂の後、夕食の支度。仕込んでおいた塩豚を使つてカルボナーラ。白ワインを一杯だけ。チーズを少し。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)の下巻、「南部坂雪の別れ」から「吉良屋敷裏門」へ。

「元禄忠臣蔵」は資料調査に基き、史実に大きく外れないやうに書かれてゐるのだが、それでも「南部坂雪の別れ」は含まれてゐる。大石内蔵助が討ち入り直前、最期の別れのため瑤泉院宅を訪れる、「忠臣蔵」名場面中の名場面だが、実際は起きなかつた創作であることでも有名。「元禄忠臣蔵」ではこの篇の付記に、黙阿弥の原作に倣つて世間伝説を尊重して作つた旨、注意書きされてゐる。この場面は面白過ぎて作家として書かずにはおられなかつたのだらうが、流石に抑制が効いてゐて味のある一篇である。

とは言へ、お芝居としては、大石を罵つて追ひ返した瑤泉院が後で血判状を見つけて、「おお、あたら忠義の士を、女ごころの浅はかさから、あのやうに悪し様に……許してたもれ、許してたも、内蔵助……」と号泣する、なんて方がずつと感動的なのだが。